諸人登山

「諸人登山」には富士山の容姿は描かれていない。峨々たる山中の登山者を描き、風景画というより風俗画といった方がいいかもしれない。 白衣をまとった富士講の人々が白雲をついて登っていく姿態のそれぞれに北斎独特の力強よい筆致が見…

東海道金谷の不二

金谷は東海道の大井川の島田宿と称した宿であるが、この間の大井川を江戸時代は橋がなく、旅人は輦台や肩車で、川人足の力をかりて渡渉した。その風景がこれである。雨上りか水かさも多い。大名の行列の駕籠や荷物が輦台で渡り、旅人は人…

駿州片倉茶園の不二

「駿州片倉茶園の不二」は、北斎が肉筆画で示すような細密描写で、茶園風景を描いた作であり、46景中でも珍らしい。茶つみの女達の働く姿、つんだ茶を馬や肩で運ぶ人たち、すべてが働き動くさまが、こと細かに描かれている。まことに「…

駿州大野新田

東海道の原と吉原の間で、「浮島ケ原」といって沼地あり、芦がしげり風情のあるところとして古来歌枕にもなっている。 その芦を刈った農夫たちが、夕やけの富士を背にして家路についている。5頭の芦をつんだ馬と 芦を背にした農婦が2…

相州仲原

大山詣の道にあたるこの仲原の図には、それらしい人々や農夫農婦の姿が、実に配置よく描かれている。無雑作のようでいて決してそうでない。各人物が居るべきところに適確に配置されている。そこに北斎の技量があるといえる。 人物それぞ…

身延川裏不二

いかにも甲州の富士山の裏を思わせる作品である。峨々たるる岩山の間に見える富士山の描写も、きびしい姿で描かれている。 身延川の急流も波を立てて流れている。そのとうとうたる水勢の浪音が耳をふさぐほどにきこえる思いがする。 身…

甲州伊澤暁

「甲州伊澤暁」は甲州側から見て実にさわやかな図である。甲州衛道の暁の感じが抜群である。晴れた早朝の空に富士山がくっきりの偉容を見せ、宿場(伊沢は現在石和)から早立ちの旅人たちは街道をいく。あわただしい朝の宿場風景である。…

東海道品川御殿山の不二

46枚中華やかな美しさを見せた図で、花見風景としても浮世絵中出色の作といえる。ひょろひょろと丈の高い桜の布置が特徴的で、構図的にも効果を見せその上に、はるかに品川の海を見る高台で花見するにぎやかな人々の群の描写がいきいき…

従千住花街眺望の不二

「武州干住」の田園風景とちがい、同じ干住でも干住の花街の裏手を遠く見た街道の賑わいを描いている。今しも大名行列が通り、肩にかついだ鉄砲で、これは鉄砲組の人々であろう。 花街を越して遠くに見える富士の姿が端麗で花街とはいい…

本所立川

現在の深川木場と同じく、本所の竪川筋にも木材問屋が多くあった。このあたりを描いた作で佳作の一つである。 縦の直線と横の直線を左右からつめて、その間に対岸の問屋街と手前に働く人物を配して描いた構図は北斎ならではの構図の妙で…

東海道江尻田子浦略図

田子の浦は駿河湾の今の清水あたり、ここは富士山が正面に眺められる名所の地である。この図は3段の構図から構成されている。 上段は富士の美しい偉容、霞をへだてて、中段は塩田に働く多くの人々の群の浜辺、そして下段の前景には大き…

相州江の島

その昔は、片瀬海岸から干潮時には江の島まで徒歩で渡れた。江の島の弁財天は江戸時代江戸市民の行楽の地でもあり、信仰の地でもあった。それらの人々が汐の引 いた砂地を江の島へと歩いていくさまが描かれている。 島を正面に見たての…

穏田の水車

現在の明治神宮のあたりに当るが、その昔は江戸の郊外であった。水車小屋が主体であり、それよりも「水」の描写が北斎の芸術を遺憾なく現わしている。 さまざまな水の流れの形態の真がとらえられている。籾をかつぐ農夫2人、流れ水で米…

五百らかん寺さざゐどう

五百羅漢寺は本所竪川五つ目にあり、江戸の名所の一つであった。「さざい堂」はその寺内にあった三層の堂宇で、そこから江戸の方の眺望があり、人々はここへ集まった。 その三層楼から眺めた富士で、町家の男、子供連れの女房、丁稚、そ…

御厩川岸より両国橋夕陽見

本所の御廐川岸から浅草への渡し舟(今は廐橋)が中心でさまざまな乗合の人々を、さまざまな形態で巧みに描いている。 遠く両国や対岸の浅草側もすべて夕陽のうちに逆光線で描かれ、西の空のタ焼に染った中に富士の姿も逆光線で藍色に染…

江都駿河町三井見世略図

江都駿河町三井見世略図 / Surugacho in Edo
これは、素晴らしい春景色である、沖天には凧が舞い日本橋駿河町の三井見世(今の三越)を両角にした通りの正面に白雪を頂いた富士山が端然と描かれている。

東海道程ヶ谷

まことに東海の旅情がそこにある。松並木、それを通して富士の姿。その前の街道の有様がつきせぬ感興をそそる。休む駕駕籠、そしてどこへ行くのか虚無僧の後ろ姿。これら人物の配置もよく、東海道中の姿をなつかしむ心が湧いてくる。

甲州三坂水面

湖水は河口湖である。三坂峠からの「さかさ富士」を絵にした作で、湖面は波一つなく静かである。その水面に中央の裏富士がくっきりと写っている。

相州箱根湖水

箱根八里の難所で旅人の心を慰める芦の湖辺を描いた作。この絵は整然と描かれているが、画面にかなり多く用いた霞は、北斎の一つの試みといってよく、これが端正な画面を作り出している。

隅田川関屋の里

隅田川の上流、その堤を3人の侍が、早馬を疾風のように駈けて行く躍動する絵である。あとは高札場の1本の松の木である。いつものように富士山は静かである。その静もった周囲の情景の中を3頭の馬がかける。だがその疾風感がある。

江戸日本橋

江戸日本橋は東海道の起点でもあり、江戸の中心であった。その繁華、往来の多いことでも知られ、北斎は日本橋の橋を描かずに、その雑とうを、橋上の人物によって画面の下の方に描いたところに北斎のすぐれた着想がある。

登戸浦

富士はまだ春雪につつまれて彼方に遠く美しく見える。汐干狩の人々のそれぞれの動作が面白く、いかにも愉快げである。海岸の丘陵の上に登戸神社があるが、海中の鳥居は、この神杜のもので、9月5日の祭礼には神社の神輿が海へ入る。

上総の海路

波静かな上総の海上から水平線と遠い浦廻をはるかに描き、その中央に富士の姿が、小さいけれど、ここよりどこにも動かせない位置に描かれ、あらためてその美しい姿が印象つよく感じさせている。水平線を湾曲して描いていることが、大海のひろさを示している。いかにも春の海らしい感じがする。

東海道吉田

人物が主である。東海道の吉田は今の豊橋。そこの不二見茶屋から遠く富士を眺めた図で、茶屋に休む旅人たちの姿が、自由自在に如実に描かれて気分が出ている。

下目黒

目黒あたりは、大名の鷹狩りの遊び場であった。田舎家と段畑の描写がいささか混み入っているが、これは北斎の画法であって、そのために鍬をかついだ農夫が高い松の木と対称的に生きている。

礫川雪の旦

北斎の雪景は珍らしい。今の文京区(もとの小石川)のあたりは高台が多い。その高台の料亭で男が雪見酒を楽しんでいる図で、白皚々たる満天地のあなたに、これもすっぽり雪をかぶった富士の姿が見える。空は雪晴れである。

遠江山中

その一家の木挽きの働く姿が如実であるが、これが巨材を支える三又の足場、その間に富士山の姿と、三角形を駆使して作り上げたこの図は、一種の機構美をわれわれに感じさせ、その間を縫って焚火の煙りと富士を巻く巻雲によって構成されて、この絵をさらにすぐれたものにしている。

駿州江尻

これは風の絵である。北斎は風を描いてこの絵の中にあらゆるものを表現している。道ゆく誰も彼もが一陣の突風に飛ばされんばかりで、身体を支えるのさえやっとといった姿態描写の巧みなことは北斎ならではの技量である。

東都浅草本願寺

浅草本願寺は一名西本願寺といわれる。築地本願寺の別院である。この図は思い切った本堂を大屋根を右に描いた奇想が特色である。

甲州三島越

甲州三島越 / Mishima Pass in Kai Province 「甲州三島越」は、佳作の一つである。この絵で北斎は、白然がいかに大きく、人間がいかに小さいかという、自然尊崇の哲学を表現しているように見える。 富…

相州梅澤庄

浮世絵としてあまりに高尚で面白味がないと評する人もあるが、「相州梅澤庄」で北斎は自己の澄みきった一つの心境をあらわしている作である。それは何により富士山の美しさである。

常州牛堀

水郷潮来に近い。その牛堀に苫っている荷船を実に細密に描いている。そして船頭の生活の描写もまた如実である。

甲州石班沢

「甲州石班沢」を見ると一幅の漢画を見る思いがする。激流の中につき出た巨巌の上で父子の漁師が綱を打っている。 その構図、その人物の配置、描写にはまことに北斎ならではの緊張感と構図美がある。中景の流れから富士のきびしい姿へのもり上りも、前景と調和がとれている。

信州諏訪湖

ひろびろと湖水を描き、左手に高島城のある岬を見せ、そこでは遠くなった富士を遠く見た平板な景観に対して、思い切った近景の社と二又に割れた巨木で画面の中央を占めさせた構図は、この絵を立体的にもり上げて、なかなかの佳作にしている。北斎の技量ある。

相州七里浜

七里浜から稲村ケ崎への眺望、その上に白雪をいただいた富士の遠望である。左手の島は江の島であろう。ひろがる大洋と岸辺の小波に対して、遠くの空の入道雲が、一見単調に見えるこの絵に変化を見せて、そこに面白さもある。

武陽佃島

中央の島が、その佃島で、漁村も見える。はるかに富士を望む東京湾には、島の附近は荷物や、魚つりの乗合舟、漁夫のいさり舟などで賑わっている。その賑わいが島の風情を欠く思いもするが、遠い富士の姿が、この絵をひきしめ落ちついたものにしている。

武州玉川

上段霞の彼方の富士山は、いかにも厳然と、また泰然と正しく、この絵を力強よいものにしている。手前の樹木と土坡が色彩に複雑さを見せている。

尾州不二見原

尾州不二見原 / Fujimigahara in Owari Province この図は、なによりも奇抜な構図によって世界的に有名である。中央に大きな桶の円があり、その中に小さな富士が遠く見えるという面白さである。しかも…

甲州犬目峠

甲州犬目峠 / Inume Pass in Kai Province 「甲州街道犬目峠」は、構図的に妙をきわめ、左手の富士山に対して、左から右へと登る街道のカーブが機構的な美しさを示している。峠をのぼる2人の旅人の足どり…

武州千住

武州千住 / Senju in Musashi Province 荒川は隅田川の上流をいう。その荒川の北側に干住がある。ここは街道から離れた田舎道であろう。草を刈った籠を馬の背につんだ農夫が川越しに夕空に望む富士を仰いで…

青山円座松

青山円座松 / Enza Pines at Aoyama 青山円座松は、構図の妙と描写の細密さですぐれている。富士の左の斜線を長くのばした姿と位置、右から左への流れるようた円座の松の描写が、配置よく心地のいい構図である。…

東都駿台

東都駿台 / Surugadai in Edo 夏の暑い日の午後である。緑の土坡、樹木がうだるような暑さを見せている。駿河台の坂を、行商人、六部、商人、侍たちが、暑い日ざしの中を上下している。 遠景に見える富士も、夕やけ…

深川万年橋下

深川万年橋下 / Mannen Bridge at Fukagawa 深川万年橋下は、北斎の遠近法の機構美を発揮した佳作の一つである。思い切った構図、橋を中央に大きく描いた構図は人の目を驚かすといっていい、それでいて、こ…

山下白雨

山下白雨 / Summer Shower beneath the Peak 「凱風快晴」とは違って、これは「動」の絵である。裾野は雷電はためく夏の雨である。しかし富士は毅然としてそそり立っている。 遠くに湧立っ雷雲も夏の…

凱風快晴

凱風快晴 / View on a fine breezy day この図は、北斎の最大の名画といわれ、世界的にも有名である。「富岳三十六景」の中で、この絵は「神奈川沖浪裏」「山下白雨」とともに三大名作の一つである。 この…

神奈川沖浪裏

神奈川沖浪裏 / View through waves off the coast of Kanagawa 三大役物の一つであるばかりでなく、これほど人に知られた傑作はございません。大怒濤のさかまく浪の間に、人間の乗る舟…

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